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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)1699号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人若林芳雄弁護人島田武夫上告趣意第一点、被告人深川善正、同喜内長蔵弁護人古屋東上告趣意第三点について。

島田弁護人の所論は、公職選挙法二五二条一項の選挙権及び被選挙権の停止は憲法三一条にいわゆる刑罰でありながら、被告人は法律に定める手続によらないでこれを科せられたのであるから、原判決は憲法三一条に違反すると主張し、また古屋弁護人の所論は、このような公職選挙法二五二条の規定は憲法三一条に違反するから無効であると主張する。

まず公職の選挙権は、国民のもっとも重要な基本的人権の一つであるが、それだけに選挙の公正はあくまで厳正に保たれなければならないのであって、一旦この公正を害し、選挙に関与せしめることが、不適当と認められるものは、しばらく、選挙権、被選挙権の行使から遠ざけて選挙の公正を確保するとともに、本人の反省を促すことは相当であるから、これをもって不当に国民の参政権を奪うものというべきでなく、従って公職選挙法二五二条の規定は憲法に反するものでないことは、当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである(昭和二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日判決、集九巻二号二一七頁参照)。そしてこの選挙権被選挙権の停止の処遇は、いわゆる選挙犯罪(同条一項二項所定の罪)の処刑とともに定められるのであって、その手続は、裁判所が公判を開き、その選挙犯罪につき証拠調を中心とする審理を行い、有罪と認める場合同時に量刑について考慮し処断刑を定めるに至る過程と全く表裏不可分の関係において終始するのである。殊に同条三項は、犯罪の態様その他情状によっては、一項の停止に関する規定を適用せず、またはその停止期間を短縮する等、具体的案件について、裁判によってその処遇を軽くする途をも開いているのであるから、かかる関係は、選挙犯罪そのものの審判と別途に考えられるものではなく、従って所論のようにことさらに右処遇のみを切り離し、法律に定める手続によらないで科せられると断ずる主張にはとうてい賛同することはできない(なお所論は、かかる処遇は起訴状に罰条として記載されていないというが、例えば執行猶予の法条の記載のないことも同様であり、またこの処遇について証拠調が行われないと主張するが、前示のように処断刑を定めるまでに行われた証拠調に当然包含されているのであり、特に本件のように執行猶予が言い渡されたような場合は、これを付するかどうかの判断を本来の証拠調と切り離して論ずるのは全く当らない。さらに所論は、検察官がこの処遇について意見を述べることを要しない点を挙げるが、このことはその責務としないに止まり、意見を述べることは自由であってこれを禁止する規定があるわけではない)。以上のとおりであるから、公職選挙法二五二条の処遇は決して法律に定める手続によらないで科せられるものではなく、従ってまた右法条が違憲の立法であるから無効であるという主張も、前記大法廷の判例を引用するまでもなく、その前提を欠くがゆえに理由として成り立たない。

同島田弁護人第二点、古屋弁護人第四点について。

所論は、要するに被告人若林、深川の両名が、三川勝重等から受取った現金二五万円のうち五万円は被告人深川が所論の立替金の支払を受けたものであるから、その限度では正当な金員であると主張し、また島田弁護人はこの理由を前提とし判例違反を主張する。しかし所論のような供述が、被告人深川善正の検察官に対する第一回及び第二回供述調書に存することは、所論指摘のとおりであるが、他方記録によって第一審判決の挙示の証拠(特に例えば被告人若林の検察官に対する第一回供述調書、三川勝重の検察官に対する供述調書謄本)を調べてみると原判決の判示したとおりの事実であることを十分に肯認することができる。所論摘示の供述部分は第一審判決の採用しなかったものと認めなければならない。されば原判決になんら事実の誤認はなく、判例違反の主張も前提を欠くに帰し採用することはできない。

島田弁護人第三点について。

所論は、東京高等裁判所判例を挙げているが、結局事実誤認を主張するに過ぎない。そして記録を調べてみると、所論の現金二五万円は一旦被告人等の所得に帰した上さらに被告人等の裁量で他に分配供与されたものであることを認めるに十分であって、原審の認定に誤はない。

被告人若林芳雄弁護人定塚道雄、同定塚脩の上告趣意第一点について。

所論は、原審の支持する第一審判決が、所論の金員に対し公職選挙法二二四条によって没収を言い渡したのは法律の解釈を誤った違法があると主張し、かつ判例違反と憲法三一条違反を主張する。しかし原審の判断は正当であってなんら判例に反するところなく、違憲の主張もその前提を欠くに帰する(所論については昭和二六年(あ)第二五五八号同二八年三月二七日第二小法廷判決、集七巻三号六五九頁参照)。

同第二点について。

所論は、第一審判決に処断刑が確定されていない違法があるとし、東京高等裁判所の判例に違反すると主張する。しかし右判例の判示するところは、所論の主張する事項に適切であるとは認められない。そして所論の第一審判決判示第二の(五)の所為も他の所為に対すると同じく懲役刑を選択したものであることは、次で刑法四七条を四五条とともに適用し、同法四八条を適用していないこと及び主文に罰金刑を併科していないことによって明らかである。

同第三点について。

所論は、原判決が被告人若林について被告人深川との共謀を認定したことを非難し、判例違反を主張する。しかし記録によって、原判決が詳細に説示するところと引用の各証拠とを照合してみると、共謀の事実を認めたのは相当であって、判例違反の主張は前提を欠くことに帰し採用できない。

古屋弁護人第一点について。

所論は、「運動報酬供与ノ共謀者間ニ於ケル供与資金ノ授受ト交付罪」に関する大審院判例に違反すると主張する。しかし原判決は所論のような共謀者間における本件金員の授受の事実を認めないのであるから、所論はひっきょう原審認定と異なる事実を主張するに過ぎず、判例違反の主張は前提を欠くことに帰する。

同第二点について。

所論は、本件の金二五万円の授受につき被告人等はその一部を更に他に供与または交付したから、受交付の行為は、交付罪、供与罪に吸収され別罪を構成するものでないとし、大審院判例に違反すると主張する。しかし所論は第一審判決の認定した事実と異なる独自の見解に立って判例違反を主張するに過ぎず、かつ右判例は没収又は追徴について判示しているのであるが、その前提においても、本件における確定事実と異なるのであるから、採用のかぎりでない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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